上司のヒミツと私のウソ
 しばらくすると、居間にもどってくるハルの足音が聞こえた。


 この家はどこにいてもハルの気配がする。


 引き取られた当初は、それがひどくうっとうしくてイライラした。ここを出て、ひとりで暮らすことを本気で考えもした。

 もちろん、そんなことは無理だとすぐにあきらめたけれど。


 今ではなんともおもわない。

 この家にハルがいないと落ち着かない。


 部屋に閉じこもっていても、耳はハルの気配を探している。

 ハルがどこかに出かけて夜遅くまで帰ってこないときは、心配で眠れない。朝目覚めたとき、ハルがいて、ひとりではないことを確認するとほっとする。


 いつの間にか、俺のそばにハルがいることがあたりまえになっている。


 それが、ほんとうはとても怖かった。

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