上司のヒミツと私のウソ
両親に会うのは、七年ぶりだった。
研修医として勤めていた病院を辞めて以来、ずっと彼らから身を隠して生きてきた。このまま永久に逃げ続けることができたら、何者にもならずにすむとおもっていた。
恥ずかしくなるほど臆病だった自分の逃げ腰な態度が、この事態を招いたのだとわかっている。
隼人に誤解させたまま、彩夏を苦しめ、そして無関係の西森まで巻き添えにして、傷つけた。
今は、自分がどこにいて、なにをいちばん必要としているか、あのころよりはわかっているつもりだ。
レッテルが剥がれた瞬間に背を向けられることを恐れて、自分からすべてを手放してしまっていた、あのころよりは。
待ち合わせは、彼らの行きつけの有名ホテルの最上階にあるレストランだった。
五分遅れて到着すると、案内された窓際のテーブルには仕立てのいいスーツを着こんだ初老の夫婦が座っていた。
「久しぶりですね、庸介さん」
母の声は相変わらず生真面目だった。