上司のヒミツと私のウソ
 地味な服装も飾り気のない髪型も古風な化粧も、すべてが母の頑固な生真面目さを表していた。

 最後に会ったときよりも皺が増え、少し痩せて骨張った輪郭が強調されている。


「元気そうだな」

 すっかり髪が白くなった父は、そういいながら、俺を見ようともしなかった。

 声には逆らいがたい威厳があり、常に周りを威圧するようなぞんざいで圧倒的な存在感は、昔となにも変わっていなかった。


 七年ぶりの再会だというのに、どういうわけかなんの感慨も湧いてこない。


 そして──もうひとり。

 四人掛けのテーブルの、俺の隣に座っている若い女がこちらを見てにっこりほほえんだ。

 おとなしい色合いの上品なワンピースを着ているが、毛先を巻いた明るめの色の髪と、水を含んだようなきめ細やかな肌が幼くも見え、おそらく二十歳そこそこではないかと予想した。


「池橋有里(いけはしゆり)さんだ。今日は無理をいって付き合っていただいた」

 付き合っていただく?
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