上司のヒミツと私のウソ
──変な女。

 だが、西森といると退屈しない。

 自然と笑みが浮かんで、隣にいる気取った女にじろじろ見られた。


 世間話はまだ続いている。

 空を見ながら、彼らの世間話は永遠に続くのではないかとうんざりし始めたころ、突然前ぶれもなく父が切り出した。


「その仕事をいつまで続けるつもりだ」


 朗らかな会話が途切れ、テーブルが急に静まりかえる。

 なぜいきなり居丈高なのだろうと内心ムッとしつつも、表情に出さないよう努めて冷静を装った。


「私が誇りを持って取り組んでいる仕事です。いつまでということはありません」

「おまえは、私のあとを継ぐために大学を受けたんじゃなかったのか」


 声音はあくまで静かだが、その声の底に漲る憤りは疑いようもない。

 ようやく真正面から俺をとらえた彼の目には、この数年の間に腹に積み重ねてきた怒りと屈辱が混濁しているように見えた。
< 361 / 663 >

この作品をシェア

pagetop