上司のヒミツと私のウソ
「あれほど周りが気を使って、おまえのために協力してやったというのに、途中で逃げ出すとは……。情けないやつだ」


「あなた方の期待に添えなかったことは、私自身とても腑甲斐なく申し訳なかったと思っています。しかし病院は隼人が継ぐといっているのですから、それでいいではありませんか。とうの昔に医療を離れた私に、今さらどうしろというのです」


「腑甲斐ないという自覚があるなら、今からでもやり直せ」

 そういって、ちらりと隣席の有里という女に目を向けた。


「おまえが有里さんと結婚して病院を継いでくれれば、なにもいうことはない。私たちも安心して身を引くことができる」

「有里さんのお父様は、うちの病院を支えてくださっている方なんですよ。隼人もきっと力になってくれるでしょう」


 溜息が出た。

 このふたりは、七年経ってもなにもわかっていない。


 反論することにはたして意味があるのかとも思い、投げ出したい心境だったが、彩夏のことを考えて踏みとどまった。
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