上司のヒミツと私のウソ
 ホテルを出ると、焼けつくような真夏の陽射しがアスファルトを焦がしていた。

 七年ぶりに両親と顔を合わせた結果がこれかと思うと、失望と罪悪感で気が滅入った。


 正面玄関に待機しているタクシーの後部座席に乗りこもうとしたとき、誰かが走ってきて俺の後ろから強引に車内に乗りこんできた。


「出して」

 女がいった。

 見ると、たった今まで同じテーブルについていた有里という若い女だった。


 タクシーがホテルを出て、車の少ない大通りを走り出す。

 外は炎天下で、強烈な光を浴びて色あせた白っぽい景色が連なる。車道の脇に植えられた木立の根もとにだけ、妙にくっきりと濃い影が落ちている。


「遊びにいかない?」

 運転手が行き先を聞こうとしているのも構わず、有里という女は意味ありげな笑みを俺に向けていった。
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