上司のヒミツと私のウソ
 池橋有里。

 副医院長の娘で、たしか当時は中学一年だった。


 七年前、俺が研修医をしていた病院に有里の祖母が入院していた。

 三日とあけず見舞いにきていた有里は、どう見ても小学校の四、五年生くらいにしか見えず、小さくて痩せていて色黒で、性格はあけっぴろげで無邪気で色気なんかまるっきりなかった。


 担当医ではなかったが、うちの病院の副医院長の家族だというので、俺も気にかけて見舞うようにしていた。病室に通ううち、有里にすっかりなつかれた。


 いつもドタバタ病院の廊下を走り回ってはナースに叱られていたような子が、たった七年でこの変わりよう。成長とはおそろしい。


「思い出してくれた?」

「……思い出した」


──ということは、今は二十歳か。


 よくよく見ると、顔立ちもすっかり大人っぽくなり、今ふうの髪型も化粧も似合っている。

 まあ美人と呼べるほうかもしれない。
< 366 / 663 >

この作品をシェア

pagetop