上司のヒミツと私のウソ
「夏休みになったらディズニーランドに連れてってくれるって、あのとき約束したよねー。すっぽかされたけど」

 覚えてない。

「あたし、お見合いなんて全然乗り気じゃなかったんだけど、相手が矢神センセなら話は別だし。断然、オッケー」

「なにいってるんです」

「だって、ホントのことだもん。それに、あたしと結婚したらなにもかもうまく収まるんでしょ。おじさんたちも
うちの親も、みんなそれを望んでるんだから……そうすればいいじゃない」


 なるほど、そういうことか。

 一旦おさまりかけていた怒りが、再び腹の底でむくむくとふくらんできた。


──二十歳の小娘と見合いだと? なにを考えてるんだ、あの親たちは。


「止めてください」

 運転手に声をかける。俺の剣幕を感じとったのか、運転手があわてて歩道にタクシーをよせ、停車させた。
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