上司のヒミツと私のウソ
 しばらくたつと冷房が効いてきて、蒸し暑かった部屋の中が冷えてきた。

 俺は新聞や本や郵便物がどっさり積み重なっているソファの上に、上着とネクタイを放り投げた。座る場所はとうの昔になくなっている。


「有里に会ったか?」

 隼人がふいに聞いた。

「美人になってただろう?」


 茶化すような皮肉混じりの声に、うんざりした。

 ただでさえ勝手に見合いを仕こまれて頭に来ているのに、無神経な態度で蒸し返されるとさらに腹が立つ。


「いっとくが、俺はあんな小娘と結婚する気はさらさらない」


 有里はいい娘だが、やっぱり子供だ。


「病院を継ぐ気もないし、今の仕事を辞めるつもりもない。あの人たちがなにを考えてるのかしらないが、こっちはいい迷惑だ。だいたい、おまえがさっさと彩夏と結婚して病院を継いでいれば、こんな面倒なことにはならなかったんじゃねえのか。なにのらくらしてんだ。彩夏がかわいそうだろーが」


 気づいたら我を忘れてまくしたてていた。
< 371 / 663 >

この作品をシェア

pagetop