上司のヒミツと私のウソ
「たしかに彼女とは一時期付き合っていたけど、それはお互いに別の目的があってしたことで、本意じゃなかった。西森は大事な部下。それだけだ」


 隼人は長い間じっと俺の顔を見て、それからまた無表情にもどり、小さな声で「へえ」と関心がなさそうにつぶやいた。

 そしえ胸ポケットからサングラスを取り出してふたたびかけると、窓際から離れて玄関へ向かった。


「あの人たちのことは俺がなんとかする。おまえは黙ってオレンジジュースでも作ってろ」

 部屋を出ていくとき、「彩夏のことは心配するな」と小声でささやくのが聞こえた。





 盆休みが明け、会社が通常営業にもどった。

 いつもなら、長期休暇のあとの受信メールは一千件を超えるのだが、めっきり減っていた。ざっと目を通してみても、急ぎの仕事はない。
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