上司のヒミツと私のウソ
 社内でどんなプロジェクトが進んでいるのか、誰と誰が主導権を握っているのか、情報がシャットアウトされた今、ほとんどわからない。


──異動、かもな。


 親の前では偉そうなことをいって、現実がこれでは話にならない。

 隼人はああいってくれたが、強引なあの人たちのことだ。この状況を知られたら、今度こそほんとうに連れもどされるかもしれない。


 始業時刻を過ぎても西森が出社してこないので、安田が携帯電話に連絡を入れた。留守電だったらしい。

 企画部に移ってきてから無遅刻無欠勤だった西森が、無断欠勤するとは考えられない、と安田がいう。なにかあったのではないかと。だが、連絡が取れないものはどうしようもない。


 一時間過ぎても、西森からの連絡はない。


 俺は屋上に出て、置きっぱなしのパイプ椅子に腰掛けて足を投げ出し、晴天を見上げて煙草を吸った。

 煙がしみるのか、爽やかすぎる青空がしみるのか、目がしばしばする。


 煙草の火を消して、視界を閉ざした。


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