上司のヒミツと私のウソ
ハルを待っていた。
朝、夕方にはもどるといって出かけたのに、夜九時を過ぎても帰ってこない。
どこに出かけるかなんて聞いていないし、ハルの交友関係はさっぱり謎だから、誰かにたしかめることもできない。
遅くなるなら電話くらいしてくれればいいのに、とおもう。
この前も仕事で北海道に取材に出かけて、約束の三日が過ぎても帰ってこなかったことがあった。
五日目の午後にひょっこり帰ってきて、「大雪で飛行機が飛ばなくってさあ」なんてあっけらかんというから、ほんとうに頭にきた。
だったら連絡くらい入れろよ、といったら、ハルがいきなり後ろから抱きついてきた。
「なんだなんだ。おまえ、そんなに俺のことが好きだったのか」
「やめろ、バカ! くそおやじ!」
「誰かを心配するっていうのはな、愛があるからなんだぞ」
「そんなわけねえだろ!」
ハルの腕をふりほどいて自分の部屋に駆けこみ、ぴしゃりと襖を閉めた。