上司のヒミツと私のウソ
 ハルは、いつもそんな調子で俺をからかう。

 俺が心配すればするほどうれしそうで、だから今回も、わざと連絡してこないのだ。


 そうおもうとますます腹が立つ。


 足もとで猫のハックがにゃあにゃあ鳴いて、えさの催促をしている。えさをやるのをすっかり忘れていた。

 棚の上からキャットフードの袋を取り出し、皿に入れてやったら、がつがつ食べ出した。


 玄関の戸締まりをして家中の灯りを消し、布団に入って無理やり目を閉じる。

 ハルが帰ってきても絶対に開けてやるもんか、とおもった。


 ハックが暗がりの中でキャットフードを囓っている音が聞こえていた。眠れないまま夜が明けた。


 でも、ハルは帰ってこなかった。


 あれからずっと、帰ってこない。


 彩夏は隼人のもとへゆき、ハルは俺の前から姿を消した。
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