上司のヒミツと私のウソ
 時間が早いので客はまだ少ない。私は壁際の二人掛けのテーブルに腰をかけた。


「お飲み物はなにになさいますか」

 さっきの女性がおしぼりを持って注文を聞きにきた。

「ごめんなさい。お酒はだめなので、ウーロン茶をください。それと……旬の鮮魚のお造りと、煮玉子入りもつ煮込み、自家製おぼろ豆腐──あ、それからあたたかい地鶏のサラダも」

「かしこまりました」

 注文票に書き留めると、すぐにカウンターの中にもどっていく。


 徐々に席が埋まり始めたころ、さっきコンビニの前でチラシを配っていたアルバイトの女の子が「ああさむう」といいながら店にもどってきた。

 厨房から「ご苦労さん」と声がかかり、代わりにカウンターの中にいた女性がエプロンをはずして店を出て行った。交代でチラシを配っているらしい。包丁を握っている厨房の男性を入れて、店員は三人だけのようだ。
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