上司のヒミツと私のウソ
 出された料理は、どれも文句のつけようがないほどおいしかった。

 ただ、食事だけでお酒を飲まない私は、店の中が混んでくるとひとりでゆっくりしているわけにもいかなくなった。一服したら席を立とうとおもい、コンビニで買ったばかりのハイライトの封を開けた。


 そのとき、格子戸が開いてまたひとり客が入ってきた。


「いらっしゃい。来てくれたんですね」


 その男性客を見るなり、厨房の中にいたひとが満面の笑みを向けた。知り合いらしい。


 黒い革ジャンに両手を突っ込んだまま、男性客は開いているカウンター席に腰掛ける。

 私の席からは背中しか見えなかったけれど、その黒い革ジャンがもろに私好みで、おもわず見入ってしまった。

 高そうだし女の私にはサイズが合わないだろうけど、デザインも革の風合いもすごくいい。

 ゆっくり煙草を吸いながら、私はなめらかな革の手触りを想像してうっとりしていた。
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