上司のヒミツと私のウソ
 私にひっかけられたと気づいた矢神は、もちろんたちまち不機嫌になった。

 むっつりして、胸ポケットからすばやく煙草を出し、手際よく火をつけて乱暴に口に咥える。


「でも、どうしてわかったんですか。うわさが立つこと」


 少なくともキックオフミーティングのときは、まだうわさは立っていなかったとおもう。周りの態度が変わったのは、そのあとだ。

 矢神はおもしろくなさそうに横を向いて煙草を吸いながら、「いつものことだからな」と投げやりな台詞を吐いた。


「大きなプロジェクトのメンバーにちょっと毛色の変わったヤツが加わると、たいていそういううわさが立つ。ま、要はひがみだな」


 毛色の変わったヤツ。

 それ、私のことですか?


「俺の場合はいつも女性がらみだから、今度もきっとそうくるだろうとおもった。過去、俺が社内の女性社員に手を出したといううわさを数え上げたら、それこそきりがない」


「手、出したんですか」

「……あのな」

 むっとしたように険しい顔で私を見る。
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