上司のヒミツと私のウソ
「俺が社内で付き合ったのは西森だけだ。それも、なにもしなかったんだから手を出したことにはならな……」


 いいかけて、さすがにまずいと気づいたらしい。


「うわさはあくまでうわさだ」


 矢神は指定席のパイプ椅子に足を組んで座り、ぼんやりと空の高いところを見つめて煙草を吸っている。


 まだ、彩夏さんのことをあきらめていないのだろうか。

 私の心が矢神でいっぱいになっているように、矢神の心は彩夏さんでいっぱいになっているのだろうか。


 彩夏さんのことを想って──。


 今以上の関係を望むことができないのなら、せめて、いつも矢神を信じられるようになりたい。

 いつも矢神に信じてもらえる存在になりたい。


 せめて、仕事の上では最高のパートナーになりたい。
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