上司のヒミツと私のウソ
「あ、それから」

 煙ののぼる先を見ながら、ふとおもいついたように。


「あなたは秘密主義のようだけど、僕はそういうの苦手なんです。陰でコソコソするのも気が引けるし。もっとオープンにいきましょうよ、ね?」

 福原は薄笑いを浮かべ、灰皿で煙草をもみ消した。


「久しぶりに、会社に来る楽しみができたなあ。新プロジェクトのメンバーからも外れちゃったし、ちょっと退屈してたんですよね」

 冗談みたいに笑って、氷の溶けかけたアイスコーヒーのグラスに手を伸ばす。


「よくしゃべる男だな」


 アイスコーヒーを飲みかけていた福原の動きが止まる。


「話はそれで終わりか」


 俺はグラスの水を一気に飲み干し、席を立つ。


「え? ああ、まあ……」


 顔に軽薄な笑みを貼りつけたまま、福原が落ち着きのない目で俺を見上げた。俺はその顔を睨みつけてから、テーブルの上の伝票をつかんで席を離れた。
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