上司のヒミツと私のウソ
 あのとき急に現れた──気づかされた感情を、なんとかして否定しようとしたのに、福原のバカがぶち壊した。


 屋上で、はからずも浅い夢に引きこまれ、目が覚めて目の前に西森がいることを確認したとき、そのぬくもりを直に手のひらで感じたとき、心からほっとした。


 西森は大事な部下だ。

 上司なら、部下を心配するのは当然だ。

 なにも特別なことじゃない。


 そう思いこもうとした。何度も、自分自身にいい聞かせて。

 だがそれは、無駄なあがきというやつだった。心の底ではわかっていたのだが。


 結局、福原の出現がだめ押しになった。


「そろそろもどらないと」

 西森が腕時計を確認しながらいった。


 口では大丈夫だといっているが、西森は社内の連中の心ない言葉や態度にきっと傷つくだろう。いや、もう傷ついているかもしれない。

 そのことに、俺はこの先、平気でいられるだろうか。
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