上司のヒミツと私のウソ
「だって私は『RED』に参加してて、課長と同じ部署にいるんですよ。ひとことも口をきかないなんて、どう考えたって無理です」


「だったら開発に行け」

 西森がぎょっとしたように振り返る。


「これ以上騒ぎが大きくなったら収拾がつかなくなる。本間も承諾済みだ」

 本気かどうかを見定めようとしているのか、西森の顔はじっとこちらを見つめたまま動かない。


 俺は少しずつ西森との距離を縮めていった。

 西森の目にいつもの挑みかかるような色が加わった。


「また、私の気持ちは無視ですか」

 怒りと緊張を帯びて声がかすれている。


「私はどこにも行きません、絶対に」

「俺の身にもなれ」


 うわさの原因が俺である以上、俺が西森をかばえば、さらに火に油を注ぐことになる。

 目の前にいながら、助けてやることができない。
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