上司のヒミツと私のウソ
 昨日のように、本間やほかのだれかが手を差し伸べるのを黙って見ているだけだ。

 これでは、なんのためにそばにいるのかわからない。


 福原は、最初からこうなることを知っていたのだ。

 俺がとる行動すらも、あいつの計算の中に含まれていたのかもしれない。


「迷惑をかけていることは、申し訳なくおもってます。でも、私はここで仕事がしたいんです。なにをいわれても平気です」

「おまえはよくても俺が我慢できない」


 福原が手を伸ばせる場所に、西森を置いておきたくない。


 渇いた焦りが脳を支配し、勝手に体が動き出していた。

 西森の弱点を思い出した。

 はからずも、松本の一件がそれを思い出させてくれた。


「それとも」


 フェンスに歩みより、西森の片方の手首をつかんで、さらに接近する。

 できるだけやわらかい笑みを保ち、西森の顔をのぞきこむ。


「ひょっとして俺のことが好きなのか」
< 454 / 663 >

この作品をシェア

pagetop