上司のヒミツと私のウソ
 効果はおもった以上だった。

 西森はたちまち落ち着きを失って赤くなり、あわてて俺の手を振り払うとフェンスから逃れた。


「な。なにいってるんですか」


 こっちがたじろぐほど、しどろもどろになっている。

 必要以上に俺から離れて、ぎこちないまなざしを向ける西森が、まったく別人に見える。


「だったら素直にそういえばいいのに」


 近づこうとすると、西森はさらに後ずさった。

「勘違いしないでください。私は別に、そんなことおもってません」


 本人は不敵な笑みを浮かべているつもりらしいが、ひび割れた粘土細工のようにたどたどしい。


 西森は甘い言葉とスキンシップに弱い。

 今おもえば、付き合っていたころからそうだった。


 ただ、あのときはこちらも騙されていたから、西森がほんとうに恋愛下手だとはおもってもみなかった。
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