上司のヒミツと私のウソ
 私が冷静になっていれば、矢神がたくらんでいることくらい、見抜けたはずなのに。

 あんな策略に簡単にひっかかるなんて。

 ああもう。ほんとうに嫌になる。


「わかった。私から課長に頼んでみるよ」


 安田があっさりといったので、驚いた。


「どうしたの、急に優しくなって。気持ち悪い」

「あんた喧嘩売ってんの。せっかくひとが親切に手を貸してやろうとしてんのに」


 ジロリとこっちを睨んでから、安田はまた溜息をつく。


「私はいいけどね、別に。でも、矢神課長の前では意地を張るのやめたら。そうしないと、いつまでたってもあんたの気持ちなんて伝わらないよ」

「正直になればいいってもんでもないでしょ」


 私はまたのろのろとダンボールに腰を下ろした。さっきよりもさらにお尻が深くめりこんだ気がする。


「今回のことは、やっぱり私が悪かったとおもう」

「なにが?」

「松本さんのこと」

「あー、あれか」
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