上司のヒミツと私のウソ
第2章 上司の策略 Annoying and thanks
三月一日、私の新しい部署での仕事が始まった。
朝礼で自己紹介をしたあと、席にもどる間もなく矢神のデスクに呼びつけられた。
「倉庫の整理をお願いしたいのですが」
「……はい?」
おそるおそる矢神を見ると、どきっとするほどやわらかな微笑をたたえて私を見ている。
「鍵はこれです。行けばわかるとおもいますが、かなり長い間片付けていないのでひどいことになっています。ひとりでは大変だとおもいますから、できるところまででかまいません」
かすかに、シトラスとムスクの上品な香りが漂う。
整髪剤できれいに整えられた髪、皺ひとつない黒のスーツ。ストライプシャツに合わせたネクタイは紺と白の幅広のストライプ。今日も腹立たしいくらい完璧だ。
「今からですか?」
「ほかに急ぎの用事があれば、後でもいいですよ」
矢神は白々しくそんなことをいう。
いきなり企画部に移ってきて右も左もわからないというのに、急ぎの仕事なんてあるはずがない。
メタルフレームの眼鏡の向こうで、矢神の眼に一瞬だけ挑戦的な光が浮かぶのを見たような気がした。
朝礼で自己紹介をしたあと、席にもどる間もなく矢神のデスクに呼びつけられた。
「倉庫の整理をお願いしたいのですが」
「……はい?」
おそるおそる矢神を見ると、どきっとするほどやわらかな微笑をたたえて私を見ている。
「鍵はこれです。行けばわかるとおもいますが、かなり長い間片付けていないのでひどいことになっています。ひとりでは大変だとおもいますから、できるところまででかまいません」
かすかに、シトラスとムスクの上品な香りが漂う。
整髪剤できれいに整えられた髪、皺ひとつない黒のスーツ。ストライプシャツに合わせたネクタイは紺と白の幅広のストライプ。今日も腹立たしいくらい完璧だ。
「今からですか?」
「ほかに急ぎの用事があれば、後でもいいですよ」
矢神は白々しくそんなことをいう。
いきなり企画部に移ってきて右も左もわからないというのに、急ぎの仕事なんてあるはずがない。
メタルフレームの眼鏡の向こうで、矢神の眼に一瞬だけ挑戦的な光が浮かぶのを見たような気がした。