上司のヒミツと私のウソ
「代理店の件は?」

 私は聞いた。安田はお手上げだといわんばかりに首を振る。


「まだ教えてくれないんだよね。なに考えてんだか、あのふたり」

「勝手に進めちゃっていいのかな」

「そうするよりしょうがないじゃん。責任はリーダーにとってもらうわよ」

 怒ったようにいう。


「あのさ。『ワーキングウーマン』、見てる?」

 私が急に話を変えたので、安田は一瞬ぼんやりした。


「なんの話?」

「ドラマの話。『ワーキングウーマン』っていうドラマ、今やってるでしょ」


「もちろん見てるよ。視聴率、三週連続トップでしょ。さすが吉野里沙。彼女、演技はイマイチだけど、愛嬌があって憎めないキャラなんだよね。元モデルだけあってスタイルもいいし、洗練されてるし。最近もてはやされてるだけのことはあるよね」


「あのドラマを見て、『RED』のイメージにぴったりだとおもったんだけど……」

「吉野里沙はダメだよ。彼女、シリウスビールと契約してるもん」

「彼女じゃなくて。ほら、主人公が勤める会社の、意地悪な先輩役の……」

「はあ? あのキツイ顔の女? 冗談でしょ?」
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