上司のヒミツと私のウソ
「でも……」

「『RED』を商品名にする案、矢神課長が進めていいっていったんでしょ?」


 私は戸惑いながらうなずいた。

 あらためて確認されると自信がなくなった。あのとき、矢神はたしかに「進めていいから」といったような気がする。

 でも、ほんとうにそうだったのだろうか? 「進めなくていいから」の聞き間違いだったんじゃないだろうか?


「課長がそういったんなら、大丈夫よ」

 私の心の内とは逆に、安田は自信たっぷりにいい切る。


 昼休みを終えて執務室にもどり、仕事を進めた。頭痛はますますひどくなっていた。

 額の内側に大きな石ころが詰まっていて、内側で激しくぶつかり合っているようだ。


 体の中は熱を帯びて血が沸騰しそうなのに、外気にさらされた皮膚は鳥肌立ち、ぞくぞくする寒気にとらわれている。

 立ち上がると、足が地につかない心地がした。どうやら熱が上がってきたらしいとわかる。
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