上司のヒミツと私のウソ
 化粧室で倒れた西森を、とりあえず休憩室に運んだ。

 たまたま居合わせた販売企画課の秋田がぎゃあぎゃあとわめきたてるのをなだめて執務室にかえし、安田にタクシーを呼びにいかせた。


 西森は完全に意識を失ってはいないようで、運んでいる途中にも、なにかわけのわからないことをもごもごと口走った。

 休憩室に入ると、青白い顔で「大丈夫です」といって自分で長椅子に腰掛け、ぐったりと壁によりかかって目を閉じた。


「タクシーを呼んだから。家まで送ってく」


 よほどつらいのか、西森は眼を閉じたまま眉をひそめ、かすかに首を傾ける。

 苦しそうな息づかいだけが、静かな休憩室に響く。まもなく安田がやってきて、タクシーが到着したことを知らせた。


「私、彼女の家を知らないんです。課長は知ってますか?」

 安田は不安そうな顔で、壁に寄りかかって目を閉じている西森と目の前に立つ俺の顔を交互に見た。
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