上司のヒミツと私のウソ
第5章 終わりの言葉 Word of start
気がつくと、バッグの中で携帯電話が鳴っていた。
着信画面には安田の名前が表示されている。
頭の中が、いや全身がパニックを起こしていて、電話に出るべきかどうかさえ判断できない。
鳴り続ける携帯電話を握りしめていると、「出れば」と矢神がいった。
通話ボタンを押す指が、かすかに震えていることに気づいた。騒々しい音楽をバックに、「どこにいるの」という安田の怒鳴るような声が聞こえた。
「えっと……さっきの店を出たところ」
「そこに矢神課長いる?」
なぜか私は黙りこんでしまう。
「いるんだ。ふたりで消えるから、みんなに怪しまれてるよ」
それはまずい。大いにまずい。
答えに窮していると、矢神が「ちょっと貸して」というなり携帯電話を奪いとった。
「だから、逃げたんじゃない。わかった、今からそっちへ行くから」