上司のヒミツと私のウソ
「だから、別に、これという……」

「もしかして、なにも変わってないの? あれから?」

 安田の顔が笑いながら引きつり始めた。


「そういうわけじゃ、ないんだけど……」

 ああまずいなとおもう。おもうけど、笑ってごまかすほか、どうしようもない。


「笑ってる場合じゃないでしょっ。なにやってんのっ」

 安田は勢いよく立ち上がると、私の目の前に迫った。


「なんでそうなるの? 送別会の日に告白されたっていってたよね? あれから一か月経ってんのよ。一か月よ、一か月。信じられない。ありえないでしょ、普通。一か月もあれば、中学生だって十回はデートしてるってのっ」


 正確にいうと、一か月ではなく二週間だった。

 矢神とふたりで過ごした夜から、二週間。


「なにをどうすれば、そういう微妙な関係を続けられるわけ? 課長も課長だよ。凡人にはとうてい理解できないっ」

「がみがみいわないでよ。しょうがないじゃん、お互い忙しくて時間とれないんだから。それに今はそれどころじゃなくて」

「だからそれがおかしいっていってんの!」

 安田の剣幕に、私はのけぞった。
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