上司のヒミツと私のウソ
「そんなもん、いくらでも作れるでしょ? 会うのが無理なら電話とか。まさか、電話もなし……?」

「えーと、だから、忙しくて……」


 安田ががっくりと肩を落とした。

「また仕事に逃げる気?」


 私は安田の尋問から逃れるようにその場を離れ、壁に貼ってある『一期一会』のポスターを見上げた。

「逃げてないよ。ただ、なんていうか……もう形はどうでもいいような気がして。上司と部下でも、同僚でも、友達でも」

「よくないでしょ。なに脳天気なこといってんの」

「だって、前は『恋人』でプロポーズまでされたのに、気持ちはまったく通じ合ってなかったんだよ。そんなからっぽの器なら、いらない」


 安田はふしぎなものを見るように私を見て、ふうんといった。


「じゃあ、今は気持ちが通じ合ってるんだ」

「……と、おもう」

「お・も・う?」
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