上司のヒミツと私のウソ
 眉の吊り上がった安田の顔がふたたび近づいてきて、壁際に追い詰められる。

「わかったんだよね? 課長の本音」


 その言葉を聞いたとたん、矢神が私にそれをわからせるためにしたいろいろなことを思い出し、一気に体温が上昇した。

 顔に熱が集中して、のぼせたようになる。きっと、赤くなっているに違いない。


「……あんた、中学生?」

 安田のあきれはてた声が降ってくる。


 あの夜から、矢神とふたりで会っていないことは事実だ。

 仕事が忙しいというのは嘘じゃないけれど、それだけが理由ではなくて、やっぱり、なんとなく気恥ずかしいのだ。


「で、あんたはちゃんと伝えたの?」

 安田が腕を組み、溜息まじりに聞いた。

 私は愛想笑いを浮かべながら後ずさり、背後の壁に背中を押しつけた。


「……いいそびれた」

「なにそれ」


 安田はへろへろと段ボール箱の上に座りこむ。

「大丈夫なの? そんなんで」
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