上司のヒミツと私のウソ
 たぶん、といったあと、安田にじっと見られて私は口ごもる。


「福原さんのほうは?」

「それは……ちゃんと、断りました」


 私の返事を聞いても、福原さんは納得してくれなかったけれど。


「なんで僕じゃダメなの?」

 福原さんが熱心に聞くので、私はちょっとうろたえた。そこまで自信家なひとだとはおもわなかったのだ。

「西森さんのことは本気だったから、僕としては真面目に口説いたつもりなんだけど」

 そんなことを真剣な顔でいわれても、返事のしようがない。

 今でも顔を合わせるたびに、福原さんは小声で「矢神さんと別れた?」などと聞いてくるので、ちょっと困っている。


 ふと見ると、安田が段ボール箱に腰掛けたまま、心配そうな顔で私を見上げている。

「大丈夫だよ。そのうち、ちゃんと時間作るから」


 私はどこかで安心していたのだとおもう。

 このあと、安田のいうことが正しかったと思い知り、二週間もの間なにもしなかったことを、死ぬほど後悔した。
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