上司のヒミツと私のウソ
「ふたりとも、話し合ってもいいっていってくれてるの。あたし、けっこうがんばって説得したんだよ。あのままにはしておけないじゃない?」


 有里の前で両親と喧嘩別れしたことを思い出した。あのときは本気で頭に来たし、今でも仕方がなかったとおもっているが、それでも痼りが残ったことはたしかだ。


「あのあと、隼人さんが何度もご両親と話し合ったこと、知ってる? 彩夏さんと結婚して病院を継ぐことを、認めてもらうために」

 有里がちらりと俺の顔をのぞき見た。


「それは俺とは関係ない」

「そう?」


 急に足を止めた。駅に向かう大通りに出ていた。


「時間つくってくれるだけでいいから。あとは、あたしがセッティングしてあげる。電話してもいい?」


 黙っていると、片手を差し出して「はい、携帯出して」と催促する。

 有里の企みに乗ることに躊躇しつつも、なんとなく拒みきれずに携帯を渡した。有里はすばやく自分の携帯に俺の番号を登録すると、用済みの携帯を俺に押しつける。


「じゃあ、電話するね。今日はありがと。ごちそうさま」
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