上司のヒミツと私のウソ
 勝手にやってきて勝手に用事を済ませ、勝手に礼をいって、ひらひらと片手を振って去っていった。強引なうえに隙がない。

──西森とは正反対だな。

 白いワンピースの後ろ姿を見送って、会社にもどった。

 朝から会議室にこもりっぱなしで一服もしていない。エレベーターで最上階に直行した。





 コンビニで買った弁当を食べ終えると、私はペットボトルのお茶を飲み干し、パイプ椅子の背に体をあずけてのどかな秋空を見上げた。

 屋上はすっかり過ごしやすくなっていた。

 陽射しはやわらかくふりそそぎ、日ごとに冷たくなる風が心地よく肌を撫でる。おだやかな水色の空に、筆で刷いたような筋雲が浮いている。


 矢神が彼女と一緒に行ってしまったあと、食堂に行ってもよかったのだけれど、安田に会えばまたちくちくと嫌味をいわれそうなので、やめた。
< 605 / 663 >

この作品をシェア

pagetop