上司のヒミツと私のウソ
 いつのまにかパイプ椅子は二脚に増えていて、プールサイドのデッキチェアのように仲良く並べて置かれていた。

 二脚の椅子の間は広すぎず狭すぎず、ちょうどいい具合だ。私たち以外にも、こっそり休憩場所として利用しているひとがいるのかもしれない。


 そんなことを考えていたから、背後から足音が近づいてきたときには全身に緊張が走った。

 はっとして振り向くと、矢神が煙草に火をつけながら歩いてくるところで、私を見て驚いたような顔をした。


「めずらしいな」


 といって、隣のパイプ椅子にどかりと座りこむ。

 とたんに心が騒ぎ立ち、落ち着かなくなった。誰もいない空間をふたりきりで過ごすことに、気詰まりを覚える。


 安田には大丈夫だと強がってみせたけれど、誰よりも不安を感じているのは、私かもしれない。

 今も、彼に聞きたいことはたくさんある。

 彼女とはどういう関係? どうして隼人さんが連れてきたの? 『RED』はどうなってるの──?
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