上司のヒミツと私のウソ
「たしか半年くらい吸わなかったな。受験が終わるまで我慢しろってハルに拝み倒されて。つらかったなー、あのときは」
「あの、それは禁煙とかいう以前の問題なんじゃ……」
矢神は短くなった煙草を携帯灰皿で揉み消し、鳩が描かれた紺色の箱から新しい煙草を一本とり出して口に咥え、火をつけた。大きく吸いこんで、煙を吐き出す。
いいかけた言葉が弱々しく力を失って消えた。
煙草の香りが、風にながされてきて鼻腔を刺激する。無性に煙草が恋しくなってきた。
「もう。ひとが必死で我慢してるっていうのに、よく隣で平気な顔して吸えますね」
つい嫌味をいった。矢神が煙草をくわえたまま、じっと私を見る。
「吸いたいんだったら、吸えば」
そういって、くわえていた煙草を右手の指に挟んで、すっと私の前に差し出した。
胸が激しく動悸を打った。にわかに頬が熱を持って上気するのがわかる。矢神は平然としている。私の反応を見ておもしろがっているのではないかと勘ぐってしまう。
「誘惑しても無駄です。その手には乗りませんから」
内心の動揺を気どられたくなくて、私は顔をそむけ、強いいい方で拒否する。
「あの、それは禁煙とかいう以前の問題なんじゃ……」
矢神は短くなった煙草を携帯灰皿で揉み消し、鳩が描かれた紺色の箱から新しい煙草を一本とり出して口に咥え、火をつけた。大きく吸いこんで、煙を吐き出す。
いいかけた言葉が弱々しく力を失って消えた。
煙草の香りが、風にながされてきて鼻腔を刺激する。無性に煙草が恋しくなってきた。
「もう。ひとが必死で我慢してるっていうのに、よく隣で平気な顔して吸えますね」
つい嫌味をいった。矢神が煙草をくわえたまま、じっと私を見る。
「吸いたいんだったら、吸えば」
そういって、くわえていた煙草を右手の指に挟んで、すっと私の前に差し出した。
胸が激しく動悸を打った。にわかに頬が熱を持って上気するのがわかる。矢神は平然としている。私の反応を見ておもしろがっているのではないかと勘ぐってしまう。
「誘惑しても無駄です。その手には乗りませんから」
内心の動揺を気どられたくなくて、私は顔をそむけ、強いいい方で拒否する。