上司のヒミツと私のウソ
 『RED』のこととか、有里のこととか、隼人さんのこととか、話したいことはたくさんあった。なのに、秋の空の下を渡っていく風があまりに心地よくて、なんとなく、どうでもよくなってしまった。

 まあいいか、とおもった。安田はきっと怒るだろうけれど。





 久しぶりに西森と屋上で過ごした数十分は、心地よいものだった。最近、なんとなく西森に避けられているような気がしていたのだが、気のせいだったのだろうか。


 といっても、以前のように頑丈な仮面を被って拒絶するような露骨なやり方ではなく、ごく自然にさりげなく、ふたりきりになる機会をうまくかわされているような気がしていたのだ。


 まあなんとなく、西森の性格からして顔を合わせづらいのだろうと察してはいた。


 あるいは、まだ有里のことを誤解しているのかもしれない。けれども、くどくどいい訳するのも馬鹿らしい気がする。
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