上司のヒミツと私のウソ
 昔なついていた子供が成長して、以前と同じように自分を慕ってくれることへの親しみとでもいうべきか。有里に感じる愛情は、ほとんど保護者に近い感覚だった。

 それを説明するのも面倒だし、話したところで有里が納得するとはおもえない。


「嫌いじゃなかったら、あたしと結婚してよ」

「子供のくせになにいってんだ」


 おもわず電話口で笑い飛ばすと、有里はおもいのほか強い口調でいい返してきた。


「あたし、本気だよ。冗談でこんなこといえるわけないじゃん」

 結婚してください、と有里はもう一度いった。絶句してしまう。


「今度の日曜日、このまえと同じホテルに来て。四人で会うことになってるから。そのとき、ご両親の前でちゃんと結婚の話を……」


 黙っていると、どんどん話が進む。

 このまま放っておいたら、なし崩しにほんとうに結婚させられそうだった。冗談じゃない。


「有里とは結婚できない」

「どうして?」

「俺が結婚すると泣く女がいっぱいいるから」

「真面目に答えてよっ」
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