上司のヒミツと私のウソ
 有里は本気で怒り、こちらが答えずにいると、「あのひとのせい?」と不機嫌な声でつぶやいた。

「西森さんだっけ。あのひとでしょ、矢神センセがまえに付き合ってたひとって。隼人さんに聞いたよ」

 心の中で舌打ちした。


「あたしのほうが若いし、あたしのほうがスタイルいいし、あたしのほうが矢神センセを幸せにできるとおもう」

 どこからくるんだ、その自信は。


「絶対、あのひとよりあたしのほうが、矢神センセを好きだもん」

「……あのなあ」

「日曜の十一時だからね。すっぽかしたら許さないから!」


 怒鳴るように叫んで、有里はぶつりと電話を切った。


 ツーツーとむなしい電子音が鳴り続ける携帯電話を投げ出し、ソファに横たわる。一方的にしゃべりまくられて、耳が痛い。


 それにしても近ごろの女子大生は恐ろしい。「結婚して」などと、十五も年上の男相手によくも軽々しく口にできるなと感心する。
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