上司のヒミツと私のウソ
 始まる前から、全員が例のうわさの真偽にとらわれていることは百も承知だった。リーダーふたりがとぼけたように核心に触れようとしないので、次第に皆がいらいらし始める。

 ひととおり報告がすんだところで、いつものように「ほかに質問や連絡事項はありますか」と聞いた。なければ解散、となるのだが、もちろんそうはいかなかった。


「発売日が延期になるというのは、ほんとうですか?」


 単刀直入に質問をしたのは、販売企画の秋田だ。全員が身を乗り出し、刺すような鋭い視線が集まってきた。


「延期にはなりませんよ」


 断言すると緊張した空気が一瞬ゆるみ、ほっとした雰囲気が漂った。だが、それは一瞬だった。


「開発が遅れていることは事実です。あと、上層部が商品名の『RED』に反対しています」


 凍りつくような沈黙のあと、会議室は一気に騒然となった。話を続けようにも、誰も俺の話など聞こうとしない。
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