上司のヒミツと私のウソ
 今さらとりつくろっても仕方がない。開き直ることにした。


「ネーミングの件は俺と本間課長で上層部を説得する。プロジェクトは変更も中断もしない。このまま続行だ。以上、解散」


 しいんと静まりかえる会議室を、最初に席を立って出ていったのは安田だった。安田にうながされるように、西森もさっさと出ていく。

 ふたりが真っ先にそうしたことで、惚けていたほかのメンバーたちもつられて席を立ち、つぎつぎと会議室を出ていった。全員無言のまま。


 やがて会議室に誰もいなくなると、俺はおもわず大きな溜息をついた。同時に、隣の席で腹を抱えて必死に笑いをこらえている、本間の存在に気づいた。


「笑いごとじゃない」


 くくくっ、と本間の食いしばった歯の隙間から笑い声がこぼれた。


「あいつらの顔、見たか。鳩が豆鉄砲食らったような、っていうのはああいう顔のことか? それとも狐につままれた顔やろか。どっちでもええけど、最高やったな。あー、おもろい。おもろすぎる」


 本間がなかなか笑うのをやめないので、俺は気にせず机上の資料を片付ける。
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