上司のヒミツと私のウソ
 会議の最中に声を荒げるなど、今まで一度もしたことがない。おそらくあっという間にうわさが広まるだろう。

 とり返しのつかない失策をやらかしたとわかっているのに、心のどこかでほっとしている。


「まあええやんか」

 笑いやんでもなお、本間は楽しそうだった。


「『RED』のメンバーだけなら、なんとでもごまかせるやろ。おまえの化けの皮が剥がれるのを今か今かと待ち望んでた俺としては、ものたりんけどな」


 そういってあっさりその話を打ち切り、「さあて、今日も上層部の連中を説得に行きますか」と力強くいった。


 俺の本性を知ったところで大した問題ではないとでもいうような、本間のなにひとつ変わらない態度がありがたかった。分厚い資料の束を手にして、俺たちは会議室を出た。


──西森が落ちこんでなければいいが。


 昼休みに屋上に行けば会えるかもしれない。直接、事情を説明して心配はいらないといいたかった。
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