上司のヒミツと私のウソ
 だが、昼休みどころかその日は一日中執務室にもどることができず、ようやく上層部との話し合いから解放されて席にもどれたのは、深夜に近かった。


 思い切って電話をかけようとして、ふと手が止まった。


 携帯電話に登録してあるはずの西森の番号が、見あたらないのだ。もちろん消した覚えはない。

 考えるまでもなかった。おもいあたる節はひとつしかない。有里だ。





 鉛のように重い足を引きずり、アパートの階段を一段ずつ上る。足もとが真っ暗でよく見えないとおもったら、頭上の電球が切れている。


 部屋の前にたどりつき、鍵穴に鍵を差しこんでドアを開け、玄関でヒールを脱ぐ。部屋の中は散らかっている。時計を見ると午後十時を過ぎたところだ。


 金曜の夜ということもあるのだろうけれど、ひどく疲れていた。

 そのままベッドに倒れこみたい気持ちをぐっとこらえて、ジャケットを脱いでハンガーに掛け、ブラウスの袖をまくりながらバスルームに直行した。
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