上司のヒミツと私のウソ
 ささっとバスタブを洗って、熱い湯を溜めた。残りの服を脱ぎ捨てる。湯の中に体を沈めると、この三日間ずっと張りつめていたものがゆっくりほどけていくのがわかった。


 水曜の朝、会議室で矢神を見たとき、疲労の溜まった顔をしているとおもった。

 屋上でのんきに煙草を吸って幸せを噛みしめたりして、私はほんとうにバカだ。あのとき、矢神は有里のことではなく、『RED』のことで頭を悩ませていたのだ。


 商品名を変更するしかないとおもった。

 それが、水曜の朝から今日までずっと考えて、私が出した結論だった。


 プロジェクトのコードネームだった『RED』を、そのまま商品名にしようと提案したのは、私だった。

 そのネーミングからイメージした連作CMのストーリーに、安田を始め、メンバーの大半が賛成してくれた。


 アトリエ颯によるパッケージデザインはほぼ決まりかけている。CMに起用する俳優への打診も、それとなく進めていた。


 商品名が『RED』でなくなれば、それらはすべて白紙にもどる。一からやり直しになってしまう。
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