上司のヒミツと私のウソ
 だけど、商品名を変えることで、このプロジェクトが続行できるなら──成功につながる道がひとつでも残されているならば──それを選ぶしかない。


 昨日も今日も、矢神はずっと席を外していた。なんの状況報告もないまま、時間が過ぎる。

 うわさはどんどん深刻味を帯びていき、プロジェクトメンバーの中にも徐々にあきらめムードが漂い始めていた。


 もしもこのまま上層部の同意が得られず、経営会議で棄却されれば、『RED』は発売中止になる。


 たとえ説得に成功して発売にこぎつけたとしても、彼らが満足する数字が出せなければ、それみたことかと咎められるに違いない。


 いずれにしても、矢神は今度こそ本社にはいられなくなるだろう。


 湯船の中で強く膝を抱き、顔を湯にうずめた。

 ほんとうに馬鹿なことをしてしまった、とり返しのつかないことをしてしまった、と後悔ばかりが押しよせる。


 矢神は、きっと簡単にはあきらめないだろう。
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