上司のヒミツと私のウソ
 早く連絡をつけて、商品名を変えるようにいおう。『RED』にこだわることはない、名前なんてほかにいくらでもある。そういわなくては。今すぐに。


 バスルームを出たあと、なるべく不自然だとおもわれない台詞を考え、頭の中でひとつひとつ反復した。そしていざ電話しようとしたとき、バッグの中の携帯電話が鳴り響いた。


 表示画面に現れたのは、見知らぬ番号だった。電話に出ると、若い女の声が「西森華さん?」と聞いた。


「池橋有里です。こんな時間にごめんなさい」


 どうして有里から電話がかかってくるのだろう。私の携帯の番号を、有里が知っているはずがない。


「あ、えーと、この番号は矢神センセ……じゃなくて庸介さんの携帯から盗んじゃいました」

 悪びれもせずにいう。私は頭の中がこんがらがって、なにがなんだかわからなくなった。


「ついでに抹消しておいたけど、いいですよね。別れた彼女の番号なんて、もう必要ないですし」


 なにがいいたいんだろう。
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