上司のヒミツと私のウソ
「私たち、正式に婚約することになったんです」

　鼻にかかる、甘ったるい声で告げられた。


「明後日の日曜日、彼のご両親と四人で会うんですよ。庸介さん、ずっと悩んでいたんだけど、やっと病院にもどる決意が固まったみたい。今の仕事が片付いたら、会社を辞めるって。だから、西森さんにも協力してもらいたいなあとおもって」


　今の仕事が片付いたら。その言葉に、頭が真っ白になった。


「庸介さんのお仕事が早く終わるように、手伝ってあげてください。お願いしますね。じゃあ」

　ブツッと不快な音をたてて電話が切れた。


　フローリングの冷たい床に座りこみ、壁時計の針が音をたてて時を刻むのを聞いていた。温まった体が急速に冷えていく。


　わかっている。

　婚約なんて、きっと嘘に決まっている。

　会社を辞めるなんて、矢神がそんなことをいうはずない。


　矢神は私を好きだといってくれた。もう以前のような付き合いにはもどれないと。

　でも。
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