上司のヒミツと私のウソ
 そのとき、俺の頭の中にあるひとつの案が浮かんだ。

「部長、広告を作らせてください」

 谷部長は嫌そうな顔をして俺を見た。


「血迷ったことをいうな。発売されるかどうかもわからんような商品に、広告予算が出せるか」

「そこをなんとか。広告さえできあがれば──それを見れば、絶対にわかるはずです。『RED』でなくてはだめだということが」


 本間がにやりとする。

 谷部長はしばらく考えこんでいたが、渋い顔のまま「それでもだめだったら、どうする」と聞いた。


「旭川でも那覇でも、どこへでも飛ばしてください」

 俺は迷うことなく、きっぱりと答えた。





 さんざん迷った末に、私は矢神隼人との待ち合わせ場所に『あすなろ』を指定した。開店直後の午後五時というと、彼はぴったりその時間に現れた。
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