上司のヒミツと私のウソ
 西森の姿が見あたらないので安田に聞くと、倉庫にいるという。西森が倉庫の管理人のような存在になっていることは、いまや企画部の誰もが暗黙のうちに了解している。


 倉庫の扉を開けると、壁を見つめて立っている西森と目があった。その壁には『一期一会』のポスターが貼ってある。


「話したいことがある。『RED』の件で」


 西森はわずかに翳りを帯びた目を向けた。「わかりました」といって、また『一期一会』のポスターに視線を移す。


 そこは京都の山里だった。山の奥深い場所にひとしれず棲んでいる孤独なオオカミが、古い民家を訪ねるために里へ下り、家の女主人から茶のもてなしを受ける。

 広告自体は特に斬新というわけでもなく、有名なタレントを使っているわけでもない。


「オオカミって、日本にはもういないんですよね」

 西森が突然いった。ポスターを眺めたまま。

「え? ああ」

「じゃあ……このオオカミ、ニホンオオカミじゃないのかな……。それとも、生き残った最後の一匹……?」

 西森は首を傾げて、独り言のように小声でぶつぶつとつぶやく。
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