上司のヒミツと私のウソ
 その先がいえずに黙っていると、西森の表情が一瞬ごとに変わった。俺の言葉を待っているようにも、自分からなにかいい出そうとしているようにもおもえる。


「課長」

 ふいに背後から呼ばれて振り向くと、安田が倉庫に向かって廊下を歩いてくる。

「西森さん、見つかりました?」

 心配してようすを見にきたらしい。安田の声に、西森はほっとしたような顔をする。

 ふたりを連れて執務室にもどり、本題に入った。





「広告の制作を進めてくれ」

 あまりにもそっけない口調だったので、私はおもわず「はい」といってしまいそうになった。

 だけどすぐにその言葉の意味を理解して、私と安田は矢神のデスクの前で棒立ちになる。


「なんの広告ですか」

 安田がいった。眉間に皺がよっている。矢神は顔も上げず、なにやら資料を探して机の上を引っかき回している。
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